世の男性諸氏は、自分の彼女のどこを好きであるか、と云う説明をその本人にするのことを難しいとは思いませんか。
僕は猛烈に苦慮する。
と云うのも、結局の所どう答えても相手が満足しないであろうことが目に見えているからで、だったらうまいこと会話をはぐらかす方に労力を配分した方が幸せな結果を得られるんじゃないだろうか。
いや、誤解のないように補足しておくと、僕の彼女は大変魅力的な女である。
魅力的ではあるが、その一方で扱いも難しい。いや、これは僕の彼女に限らず女性全般に言えることだけど。
例を挙げよう。
今の彼女より随分前に付き合っていた子から『ねえ、私のどこが好き?』と聞かれた時、僕はすかさず『顔とおっぱい』と答え、その刹那横面を張られたことがある。
なんだよ、おっぱいが好きで悪いのか。
……とは言わなかったが僕が弱々しく苦情を述べると、彼女曰く『いきなり容姿のことを言われると性格が悪いみたいだし、見てくれだけで好かれてるようで気にくわない』だそうで。
かといって性格の好ましい部分を挙げれば容姿は評価してないのかと切り替えされ、ドジなところが微笑ましいと言えばそれじゃ私が馬鹿みたいだ、と拗ねられる。
つまり女って奴はですよ。
容姿を褒めれば性格を褒められたがり、
性格を褒めれば容姿を褒められたがり、
普遍的に好まれそうな美点を挙げれば『アナタしか知らない私のいいところ』を発見されたがり、
長く身近に付き合わないと解らない好ましさを解説すれば『それじゃ私はおかしい人みたいだ』と怒りだすのだ。
ああーもう面倒くさいったら!(ここ大きな字で書くところですよ)
こんな面倒くささを内包した上で交際してるんだからそれはもう相当に好きなわけで、お願いだからそう云うのを察してください。
その質問はマジで困るので、胸の谷間にしまっておいてください。
話が逸れた。
つまり、僕は今テレビドラマが終わって次回予告とCMの間と云うなかなか絶妙のタイミングで僕にとってはかなりの鬼門に属する『私のどこが好き?』を投げかけられて酷く困っているのだ。
「そうだなあ」
努めて冷静を装いながら、どうやってこの場を逃れようか考える。
「ゆ」
「ゆ?」
期待を込めた目で復唱しないでくれ。これから全力ではぐらかすんだから。
「……裕子の名前が『マミムメモ』じゃないところかな?」
見る間に彼女の表情が曇る。
いや、だって過去にその質問その他で僕を苦しめたのはことごとく『マミムメモ』を名前の一部に含む女だったわけで、迷信じみているけど僕は女の子の名前を聞いたときにマミムメモの語を聞くと身体が本能的に身構えるのだ。
「それじゃあ『ゆう子あい子りょう子けい子まち子かずみひろ子まゆみ』って8人いたら5人好きな計算じゃないの! 62.5%よ62.5%!」
いやいや、どうしてそうなる。それからなんでそんな巧みに小数点以下のパーセンテージまで計算できるんだ。
それにしても懐かしいねその歌。
僕が素朴な感想を述べると、どうやら裕子の怒りスイッチが更に深く押し込まれたみたいで、今にも掴みかからんばかりの勢いで睨み付けられる。
実は、こう云う瞬間湯沸かし器みたいな所は可愛らしくて好きなんだがな。
ああ。
そうか。
それだよ。
「それ。裕子のそう云うすぐムキになるところが好き」
「んなッ」
湯沸かし器が絶句して赤くなった。
こうなると好きな理由なんてすらすら出てくるもので、人間の脳ってのは本当にワケがわからない。
「他にはそうだな、仕事の電話が携帯にかかってくるともの凄い真剣に話すのに口からお茶が零れていたりするところとか、心構えができていないタイミングを見計らって下ネタ振ると猛烈に動揺するところとか、そのとき顔が赤くなってるのを必死に否定するところとか、あとは……」
「いい! もういい! はいはいはいもういいです参りましたごめんなさい」
裕子は片手で顔面を押さえ、もう片方の手を僕の前でひらひら振った。降伏の合図のようだ。
僕は再び読みかけの雑誌に視線を落としながら、心のなかでそっと呟いた。
……あとは、僕みたいな小難しいのを好いてくれるところ。
あ、顔とおっぱいも、勿論。
ドラマの次回予告はとっくに終わって、テレビからラブソングが流れている。