010 サンタさん

 うちは貧乏だったけれど、クリスマス前になると、母親がとりあえず今年のプレゼントについて聞いてくるのだった。僕はさきにも書いたとおり、サンタなんて信じていなかったけれど、いちおう前から欲しかった最新のゲーム機の名前を挙げた。どうせ買えやしないだろう、と思っていた。
「靴下をちゃんと飾っておきなさい」
  母親が笑いながら言った。
 去年はボードゲームの玩具をねだったのだが、渋りきった顔をされた挙句、クリスマス当日に枕元に置いてあったのは、ノートと鉛筆であった。プレゼントのうえに、電話の横にあるのと同じメモ帳が置いてあって、明らかに母親の筆跡で「ごめんね」と書かれてあった。
 しかし今年は何か反応が違う。僕は「子供のように」期待してもいいのかもしれない。僕は急に心が温かくなって、サンタは本当にいるのかもしれない、と真剣に思った。と同時に、クリスマスが早く来て欲しい、と初めて待ち遠しさを覚えたのだった。

 クリスマス当日。僕は普段じゃありえないくらい、早い時間から布団にもぐった。いちおう僕も、いい子にしておかないとサンタが来ない、ということくらいは知っている。サンタが来るならどんなことでもしてやる、と思いながら、ギラギラに冴えた目を無理やり閉じて、眠る努力をした。
 そのうち、夢うつつの中で、家のインターホンが鳴り、母親が玄関に出て行くのが分かった。そして、誰かが家にあがり、母親の楽しそうな笑い声が聞こえ始めた。しばらくすると、暖かいご馳走の匂いが僕のところまでして、僕はうつらうつらしながら、楽しいことが起こっていることを理解した。

 夜が更けて、どうしてもトイレに行きたくなった僕は、布団から抜け出して、居間を通り抜けようとした。居間には母親と、ひとりの男がいた。母親は赤い顔をにこにこさせながら、僕を強引に抱き寄せた。母親は明らかに、酔っ払っていた。
「あら起きたの、こちらはサンタさんよ。ちゃんとご挨拶しなさい」
 サンタさん!!
 目の前にいるのは、よれよれのスーツを着た、ただの中年だったが、ほんのり赤い顔をしながら「サンタです、これからよろしく」と言って、綺麗に飾り付けられたプレゼントを僕に渡してくれた。僕はいっぺんに目が覚めて、
「ちょっとトイレに行ってくる」
 と叫んで、急いでトイレを済ませた。居間に戻って、男のそばでプレゼントを開けたら、そこには最新のゲーム機と、ゲームソフトが2本入っていた。
 その後、僕は居間でごちそうの残りを食べて、布団にもぐった。ちょっと見た目は若かったし、イメージとはずいぶん違ったけれど、サンタさんだった。自分でもサンタと言ってたもの。これが夢じゃないように、と祈りながら、僕は目をつぶった。

 年明けに、母親は結婚することになり、その男は僕の父親になった。
 そして僕の苗字はその日から「三田」になったのであった。

→Next
←Back
→クリスマス雑文トップ