クリスマスだというのに、彼が待っているというのに、しかも彼は失業中で今日は一日家にいるというのに、私はバイトだ。
いや彼が失業してるから、私はバイトを休めないのだ。
しかも今日は遅くまで店を開ける。クリスマスだから。
さらにあろうことか今日の私の制服はミニスカサンタだ。
なぜだ。私はただのスーパーのレジ打ちのバイトだ。そんなものは女子高生のバイトを雇って着せてください。いやそんな人件費ないのわかってますけど。
店長からは「生足でよろしく」と言われたが、ケーキの臨時売場は店の前だ。太股がしもやけになるわバカやろう。
厚手のストッキングに、赤いブーツの中は靴用カイロで対応。
給料日は月末だが、今日は大入り袋が出る。中身の額はケーキとワインの売り上げ次第。キリストの生誕に何の関係もないこの格好で、不本意ながらも愛嬌を振りまいて道行く人への押し売りを頑張らざるを得ない。
精神年齢を十歳ほど下げる。心持ちアニメ声で
「クリスマスケーキいかがですかぁ?」
と声を掛ける。
メモその1。前を通り過ぎる人に声を掛けても遅い。向こうから歩いてくる人の視線を捉えながら勧誘する。
その2。男女の二人連れは、まず二人に声を掛けて、女性の方が興味を示したら、男性にだめ押しの声を掛ける。
その3。惰性で声を出していると楽だが、効果が薄い。
その4。やはり笑顔は効き目がある。それも寒さで貼り付いた笑顔より、声を掛けた人に改めてニコッとするとさらに効果が高い。
ここ1カ月以上店で流しっぱなしで耳タコなクリスマスソング。今日は真後ろにスピーカーを置いているので、もう耳の奥から脳みそいっぱいクリスマスソングが詰まっている。この曲みんな嫌いになりそう。
「このおいしそーなのはいくら?」
それはケーキではありません私の腕ですお客様。あー酔っぱらいの増える時間だわ。
レジスターがないので、お釣りは暗算で精算。ここは暗い上、眼鏡は似合わないと言われ外してるので、よけい手元が見えにくい。お客が重なるとパニック。焦ってお客に間違いを指摘されて、さらに頭真っ白。まさに「あわてん坊のサンタクロース」ですよ。
やった! ケーキ完売! 私が持って帰る用の一個を除いて。ワインも大方捌けた。
台や飾りを店の奥に運んで店頭を片付け、売り上げを確認する。
……合わない。
万単位で合わない。
何度も計算したけど間違いない。間違いなく、金額が間違ってる。
もう一度お札を数え……あれ? 五千円札が何枚もある。
五千円札は受け取った記憶がない。五千円に対してお釣りを渡した記憶もない。
…………私、一万円札と間違ってお釣り計算した? それも何度も!?
店長に謝り倒す。大入り袋は当然なし。ねちねち説教も素直に甘受。ほんとにすみません。
ようやく解放される。着替える間も惜しい、ミニスカサンタの上からコートを羽織った。ミニだから全部隠れる。よし。
ごめん彼。包んで置いてもらってる時計、お金がないので時計屋に取りに行けない。大入り袋を当てにしてたんで。ワインも買いたかったのに。しかも大幅遅刻。
それでもせめて、走って走って。
彼の家はここから徒歩二十分。バスも電車も通ってない。タクシー使いたいが今夜は論外。
息が白い。冬なのねえ。はき慣れないブーツが走りにくい。くそ、靴ぐらいは履き替えてくりゃよかった。
彼の部屋は三階。エレベーターのないアパートの三階。息が切れる。
ピンポーン。
なかなか出てくれない。その間にコートを脱ぐ。
それでも出てこないので、取っ手を回してみたら、開いた。あの野郎また鍵開けっ放しで。
ドアを開いて飛び込んだ。
「め、めいーくりひゅまふぅ、ふう、ふう」息が切れる。
彼が驚いてこっちを見ている。
何だよ私が来て喜ばないのか? 急い来たのに。あ、遅くなったんで怒ってる? やば。
彼がこっちへ来たかと思うと、いきなり抱き締められた。あぅ。
「ご、ごめん、ケーキだけしか」
「いいよ」
「プレゼントも買えなくて」
「もうもらった」
「え?」
「もう最高。サンタがうちにやってきた」ユーミンかよ。
あ。
ようやく気付いた。ずっと忘れてたけど、コートを脱いだ私はミニスカサンタの格好のままだったんだ。
「こんな可愛い格好してくれたの、初めてだね。俺のために着て来てくれたの?」
えーと。
いや、ただの偶然。着替える時間がなかったんで。
そう言おうと思ったんだけど、彼の嬉しそうな顔を見たら。
「……うん。あなたが喜ぶと思って」
嘘は苦手だが、なんとか笑顔で言えた。私のキャラじゃない。まあいいか。
今日はクリスマス。今夜ぐらい、彼の喜ぶ、可愛い女の子でいてみようか。
それが私の、クリスマスプレゼント。ありがたく思えよ恥ずかしいの無理してるんだから。
ブーツを脱いで、ポケットに突っ込んでいた赤い帽子をかぶり、真っ赤なミニスカのサンタ娘は、彼のためだけの笑顔で、ケーキの用意を始めた。