Out of Number 禁忌マミムメモ

唐突ではあるが、恋人や主人を抱えた女性の皆さんは恋人が一体自分のどこを好きであるか気にならないだろうか。
私は猛烈に気になる。
気になるから尋ねようとするのだが、いい歳した女が男の前に頬杖付いて「ねえ、ワタシのどこが好き?」でもなかろうと云う心の声が邪魔をしてこれが存外に難しい。
自意識と云うものはなかなかコントロール困難だ。

結局、つきあい始めてから半年も経った頃。私は21時のドラマが終わって次回予告を待つCMの間と云う絶妙のタイミングでこの質問を切り出した。
語調、言葉の早さ、タイミングのどれを取ってもさりげなさは充分な筈だ。
彼は雑誌から顔を上げて目尻と頬の間を人差し指で何度かなぞりながら(これはものを考えたり思い出したりするときに出る癖なのだ)少し思案して、こう答えた。
「そうだなあ、裕子の名前がマ行じゃないところかな」
なに、それ。
もはや次回予告どころではなくなった私が更に追求する。
「うん。俺、名前に『マ行』の入ってる女の子と相性悪いんだよ」
彼が続けたところによれば、マ行の女と恋愛になると悲惨な交際期間の後に後味悪く別れる、その気がないのにつきまとわれる、残虐な手法で振られるなどロクな目に遭ったことがないそうで、確かに気の毒な話だし世の中には相性ってあるのだなと思いはするが。
思いはするが、だがしかし。
『私のどこらへんが好きであるか』と云う質問に対してその答えはないんじゃないか。
その論法だと、仮にゆう子あい子りょう子けい子まち子かずみひろ子まゆみ、と8人居たら62.5%が好きな計算ではないか。私じゃなくてあい子りょう子けい子ひろ子でも良かったと云うのか。
少々(いや、相当)頭に血を上らせた私がまくし立てているのにも関わらず、いやあ懐かしいねその歌、なんて答える彼から更に怒りを加速される。
どうやら人は自分が怒りの頂点だと思っているところから更に温度を上げられると上手に言葉を発せなくなるらしい。
ピークをでっかく通り越した怒りで口をぱくぱくさせる私を見て、彼が堪えきれずにと云った風情で笑いを漏らした。
「んっ、なっ、あ、だ、何がおかしいのよ」
「それ。裕子のそう云うすぐムキになるところが好き」
しまった。
見事に、釣られた。
「他にはそうだな、仕事の電話が携帯にかかってくるともの凄い真剣に話すのに口からお茶が零れていたりするところとか」
う。
「心構えができていないタイミングを見計らって下ネタ振ると猛烈に動揺するところとか」
うあ。
「そのとき顔が赤くなってるのを必死に否定するところとか」
うああー。
「あとは……」
「いい! もういい! はいはいはいもういいです参りましたごめんなさい」
「裕子と一緒だと退屈しないよ。始終プレゼント貰ってるみたいなもんだ」

今日のはさしずめちょっと早めのクリスマスプレゼントかな、なんて云いながら再び雑誌に視線を落とした彼に『このサディストめ』と心の中で毒づいた。
今並べ上げられた中には出てこなかったが、きっと私が困ってタジタジになるところを見るのも好きに違いないのだ。
やっかいな嗜好を持った男を好きになったものだと思いつつ、こう云う男を好きになる自分の嗜好もまた変わってると言えなくはないな、と独り納得し、カップを持って彼の隣へ座り直した。
テレビからはクリスマスソングが流れている。

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