018 皺くちゃサンタ

父からの電話で目が覚めた。時計を確認すると十時ちょっと過ぎ。上半身だけ起こして、毛布を引っ張る。
「お前、今日来るんだろう?」
「うん。行くよ。イブだし」
サイドテーブルにあるリモコンに手を伸ばしてテレビのスイッチを入れる。
「夜中にしてくれ。そうだな……0時頃」
「どうして?」
天気予報が映し出されていた。どうやら今夜は雪になるようだ。
「ちょっと立て込んでいるから」
「ふーん。わかった」
遠くから父の名を呼ぶ女性の声が聞こえた。たぶん、父の二番目の姉だ。
「じゃあ」
「うん」
そそくさと電話を切った。

一人暮らしを始めて四年になる。家が嫌だったわけでも父や祖母が嫌いだったわけでもない。ただ親戚の目から逃れたいというそれだけの理由からだ。
私は父と血縁関係がない所謂もらわっれ子で、親戚が集まるお正月やお盆が大嫌いだった。母親がいないせいだろうけど、ちょっと服装が乱れていると口やかましく説教されるのも、従兄弟達は呼び捨てなのに私だけ【ちゃん】付けされて呼ばれるのも大嫌いだった。だからさっき、おばさんの声が聞こえてすぐに電話を切ったのだ。
父は「一人で暮らしたい」と言っても何も言わなかった。祖母は「いつでも帰っておいで。お前の家はここしかないんだから」と何度も言った。私が見つけた部屋は実家から車で十分の距離だというのに、もう二度と会えない人を見るような目をして言う祖母がたまらなく愛しくて、最低でも月に一度は顔を出すようにしていた。

祖母はクリスマスを子供のように楽しみにしていた。十二月に入るとしきりに「今年はサンタさんに何をプレゼントしてもらいたいか、手紙を書いた?」と訊く。私が「まだ」と言うと「早く書かないとサンタさんが困るよ」と急かすのだ。困るのはサンタじゃない事を知っていたけど「うんうん」と返事をして【サンタさんへ】手紙を書く。そして机の上の分かりやすいところへ置き、私がいない昼間にそれを見れるようにしておく。深夜にそっと、背中を丸めた着物姿のサンタが現れている事を知ったのは何歳の頃だったか。

外を見ると雪がチラつき始めていた。
実家へ着くと祖母の部屋にも電気がついている。深夜だというのに起きて待っていてくれたのだろうか。
「お帰り」
「ただいま。ばあちゃんは?」
私はふと気づいた。家の中がお線香の香りに包まれている。
「……。ばあちゃんは部屋にいるよ。顔を見せてあげるといい」
襖を開けると彼女は綺麗に化粧をし、白いシーツの白い毛布に頬を少し紅色に染めて静かに眠っていた。枕元には赤い袋が置いてあった。【あやこへ】と書かれている。
「何時に?」
父の顔も見ず訊いた。
「今朝、9時ぐらいだったかな」
「あたしこの前来たのいつだっけ」
「先週だっただろう」
「ハンバーグ作った時か」
「ああ。次の日の朝、ばあちゃんに食べさせたよ。うまいうまい。って言ってた」
私は祖母の髪を撫でながら「ばあちゃん」と呼びかけた。何度も何度も。途中から涙声になって呼び続けても返事はなかった。
「その袋……開けてみろ」
父は静かに促した。開けてみると、半纏が入っていた。【寒がりなあやこへ】とのメッセージ付だ。
「とうとうサンタが正体を明かしたな」
「……。うん」
祖母が少し照れくさそうに微笑んだ気がした。

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