「特に何も」
と彼は言った.
ココは狙い所か,ココで落とすべきなのか,などと思いつつも,何故か切り出せない.
これといって射撃の趣味は無い.
クリスマス自体には特に意味を感じない.そもそもイエスさんが知り合いというわけでもないから,有名とはいっても他人の誕生日なのである.祝ってやろう何ていう気が起こらないのは当たり前だろう.実は,知り合いの知り合いでした! とか,甥っ子でした! とか,そういう繋がりがあれば多少は祝うと思うけど.ヤケで.
イエスさんよりも,サンタクロースみたいにわざわざプレゼントを運んできてくれる人の誕生日は積極的に祝っていきたいのに,誰もしらない.非常に残念だ.ああ,鹿クンの誕生日だけでも解ればなあ.
話が逸れ気味かもしれない,いかんいかん.私が思うにクリスマスの唯一の利点は,適当な理由も無くしかし自然に誰かを誘う,そういうことが可能という点なのだよ.
「映画に行こうよ!」
「何で?」
「食事に行かない?」
「腹へって無い」
といった,割とクリティカルで腹に利くボディーブローを喰らわなくてすむ.これは重要.
私は打たれ弱いので,こんな返答を喰らったら,
「ぐはっ!」
とか言ってしまいそうで怖い.
そんな台詞を人前で言ってしまったら,たぶん立ち直れない.一生.
クリスマスというのはそんなこんなでやはり安全である.
致命傷に成りかねない返答を,思いがけず言われたとしても,
「クリスマスじゃん!」
という奥義があるのだから.
バンジージャンプは確かに怖いけど命綱があれば大丈夫なのと一緒だ.
つまり,現在の状況は,そういう心の葛藤を経て,帰り際の彼を呼びとめ,予定を尋ねる,というステップまでやっと到達したところ.しかし予定を尋ねておいて,その後が続かない.
行くんだ! 誘え! という心の声が聞こえる,しかし踏み切れない.
そもそも予定を尋ね,映画か食事に誘う,という流れが,自然なはずなのにとても不自然な気がする.
「予定聞いてから誘うって? うわ,それ本気? 変だね,変だよ,君は間違いなく変人」
なんて言われたらどうしよう.変人はダメだ,それだけは嫌だ.変体や変身も出来れば避けて通りたい.
こんなところまで来て,予定調和が嫌になるなんて.ここは一旦転調をすべきだろうか? いやいや,転調っていってもどうすれば良いのか,駅前のコーヒーショップのマスターの物真似は一年前に封印したから使えないし….
「何か,あるのか?」
ほらきた.アレコレ悩んでいるうちに,彼が痺れを切らせてしまったぞ.
どうにかして,気の利いたことを言って誘わなければ.
「あ,あのね…,その…」
もごもごと口ごもる.
ああ,そんなことをしていては,変人のレッテルがもう目の前に…,ピンチ….
「明後日,何処か行かない? その2人で…」
何処かって何処だよ…,もう,ダメだ.終わった.
さよなら私の青春.こんにちは1人っきりのクリスマス.
待っててくれ,ルブランのケーキたちよ.今から買いに行くから,ドッサリ.
「良いよ」
え?