034 ひいらぎを、探していた。

「ひいらぎ〜?どんなんかいね、それは」
「これぐらいの、周りにトゲトゲがある、クリスマスの飾りに使う葉っぱですよ」

山間の、高齢のお年寄りばかり集まるホスピスのようなこの病院でも、クリスマスが近ずくと、あちこちにクリスマスツリーが飾られ、病棟の廊下に流れる音楽はナツメロや演歌からクリスマスソングに変わる。
食事も当日はクリスマスっぽい盛り合わせになる。
私にはクリスマスケーキを作るという仕事がある。掛けられる予算と手間がキビシイため、何を使うかどんなデザインにするか途方にくれていた。
適当に可愛いクリスマス用の飾りなど2〜3ケのっけてしまえばそれらしく見えるホールケーキではなく、切り分けたショートケーキの形で出すなら、その一つ一つにクリスマス色をつけなくてはいけない。
出来合いのクリスマス飾りを買って一つ一つ乗せるなんてとんでもない。
コストがかかりすぎる!これが老人病院の実態。
なので私は、和食の世界でよくあるように、本物の木の葉を使おうと思いつき、どっかに生えてないかな、と病院スタッフの皆様に声を掛けたのである。それに赤いドレンチェリーでも添えれば、安く季節感が出せる、と。
それで職員皆様に声を掛けてみることにした。

しかし、寄せられたひいらぎ情報は全て、あやふやなものだった。
「あ〜、どっかで見たよ、どっかで」
「犬の散歩の途中に、どっかで見たんじゃがねえ〜」
「裏の山椒の木の向このどっかに、なかったかいねえ〜」
皆、「どっかで見た」のであり、「ここにあった」ではない。
時間はせっぱつまる。

とりあえず外に出て探してみることにした。山と木だけは豊富なのだ、このへんは。
最低限の自分の仕事を速攻、済ませて、病院あたりのあちこちを歩いた。
早上がりのパートさんが帰り際一緒に歩いてくれた。「これならええんじゃない?
葉っぱはそれらしいし、赤い実もあるよ」と指差す。
それは「なんてん」だった。でもそれじゃ、「お正月」になっちゃうじゃん・・・。
そのまま、一人であちこち歩いてた。

「あれま、何をしょうってんかいね?(してるのですか?)」と、声を掛けられた。
毎日のように、外来に通ってくる、いわば常連さんのような患者さんだった。
80歳も過ぎて、もう十分、おばーちゃんなんだけど、ヨン様が大好きで、いつもヨン様のようなマフラーを巻いて、あったかそうな手編みの帽子をかぶってやってくる。ニコニコ元気なひとだけど、連れ合いを亡くして家族もなく、今は一人暮らしだと聞いていた。

「ひいらぎを探してるんですよ」と、事の次第を話した。
「あらまあ、クリスマスのねえ〜そうなんねえ〜」
とたんにニッコリ顔になったヨン様おばーちゃん。
「ウチもねえ、家に持っとるんよ、これぐらいに(手をかざして、およそ50cmぐらい)の、くりすます(ツリー)をねえ。」
「夜になったらねえ、でんき(ディスプレイのこと)をつけるんよね。10分ほどつけて、キレイじゃなあ〜って、見るんよ」
「10分ごろになったらねえ、もったいないけえ、切るんよ。今日はこれまでじゃ!てね」
「一人でおる婆アじゃけどねえ、毎日、一人で見て、喜んどるんよ〜」

想像してみた。
毎日、一日の終わりに、一人でクリスマスツリーに、燈をともす、一人暮らしのヨン様おばーちゃん。
暖かなハレの日の光につつまれて、ほっこりして、それでも10分経つと、もったいないけえ、って、切ってしまう、おばーちゃん。
おばーちゃんの所にこそ、サンタさんが来てくれたらいいのにね。
おばーちゃんが欲しい、一番のプレゼントが、来たら、いいのにね。

明日、また私は、ひいらぎを探すことにした。
たとえひいらぎがなくても、めいっぱい、痴呆もある患者さん達にクリスマスだとわかるような、ケーキを作ろうと思って、試行錯誤することにした。
クリスマスなんだから、思い切り!やってやる!
職場内のイザコザなんかは、持ち込みたくないな、と思った。

メリークリスマス!全ての人に。
いろんな場面、全てに、メリークリスマス!

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