名を馳せた街に住むわたしたちにも12月がやってきた
わたしたちは“モグラ”だ
毎日、巨大な重機を使って地下を掘り進む
メトロポリスの下に巨大な穴をあけている
端から端までどれくらいあるのだろう
モーターからあがる水蒸気でもやがかかり 端まで見通せない
とにかく大きい穴なのだ
宇宙戦艦ヤマトだって楽に格納できる
政府の高官が言っていた
「この穴の目的はライフラインの確保であり、
水道、電気、通信など、あらゆるものがここに収められる。
極めて重要な国家プロジェクトなのである」
ライフラインの確保だなんて誰も信じてやしない
非常時には 金持ちのためのシェルターになる
いずれにせよ わたしたちには縁がない代物だ
かつてハルマゲドンを信じていた富豪が
娘の誕生日にシェルターをプレゼントした
とニュースになっていた
娘にとっては迷惑な話だ
そんなものよりは 誰よりも紅く艶めかしく
見せてくれるルージュが欲しかったに違いない
なんだかとても幸せな時代の話に思える
だが、“モグラ”がすべき仕事は穴を掘ること
それだけだ
ドガガガッ キュインキュイン シュー
パンッ フイィーン ドガガガッ
機械たちが連携しながら掘削作業を行っている
わたしたちは狭い制御室からその様子を監視している
馬鹿でかい空気清浄器はフル回転しているが
吸い取られなかったほこりがノドにからみつく
地上の道路や地下鉄からの低い振動によって
機械のジャイロが誤作動することがある
掘り進む方向を微調整し、再始動させる
日々、その繰り返しが果てしなく続く
ドガガガッ キュインキュイン シュー
パンッ フイィーン ドガガガッ
. . . . . . . . . . . . .
午後8時、交代の時間だ
その日、わたしたちは3トンの土を掘削した
予定どおりではないが、それほど悪くない
長い階段をのぼり
セキュリティチェックを受けてから地上に出る
星は見えない 雪も降っていない
そもそもこの街で雪が降ることは
とうの昔になくなってしまっていた