027 替えがたいもの

まったく嫌になってしまう。

入社してから今日まで精一杯会社に仕えてきた。クリスマスという特別な日の部長からの突然の呼び出しにもきちんと応えた。何事かと思い、会社に来た結果がこれか。いくら上からの命令だとはいえあんまりだ。これからどうやって妻と子供を養っていけばいいというんだ。それにリストラが元で一家離散になるなんてよく聞く話。それが元で自殺なんていうのも・・・。嫌な思いだけが頭の中をよぎるせいか、足取りも重かった。

しかしそんな考えも外に出た瞬間、全て吹き飛んだ。そこにはしんしんと降り続く雪と、真っ白に降り積もった白銀の雪景色が広がっていた。

そういえば──
白く輝く雪景色の中で、一際美しく輝いている君を見つけたのも
親しい仲間たちが結ばれた僕らを祝福してくれたのも
僕らの間に授かった新しい生命が、外の世界に羽ばたいてきたのも
いつもは味気ないコンクリートの塊を、赤と緑と白の色彩で鮮やかに彩る寒い日のことだった。

財布の中は豊かとはいいがたい悲惨なものだったが、私の足は自然とケーキ屋に向かっていた。クリスマスということも手伝い、店内はまさに混雑という言葉をそのまま形に表したような状況だったのだが、その日の私はどんなに長い時間でも待ちつづけられるような気がした。

店の前まで乗ってきた私の車が雪で覆われてしまうほどの時間が経ち、車の後部座席には片手で持つのが難しいほど巨大で甘いプレゼントが乗せられていた。

「ただいま。」
「おかえりなさい、あなた。今日はめずらしく早いのね。」
「パパーっ!おかえりーっ。」

妻と娘の明るい顔が僕を迎えてくれた。そんな家族の明るい顔を見ていると、無性にもうしわけなくなってくる。

「どうしたの?暗い顔をして・・・。」
そんな私の顔色を見て何か察したのか、妻が声をかけてくれた。
「いや・・・疲れてるだけさ。」
「本当に?悩み事があるんだったらいつでも相談してね。」
「・・・ああ、助かるよ。」

妻の優しさには幾度となく救われたことがあったが、このときばかりは違った。そんなことを言われると余計に今日のことを言い出しにくくなるじゃないか。

いや待てよ。

今日はクリスマスなんだ。今日のことを話すのは明日でもいい。せめて今日くらいは楽しく過ごさなくてはいけない。そう思った私は手にもっていたケーキを袋から取り出し机の上に出した。妻は嬉しそうにはしゃぎまわる娘を制しつつ、ケーキを切り分けてくれた。私のいれた紅茶と一緒にケーキを食べているときの妻や娘の嬉しそうな顔を見て、私はふと、ある思いに駆られた。

大切なことを忘れていた。

残業で帰ってくるのはいつも夜遅く。週休二日制なんていうのも縁がない。そんな仕事まみれの生活を送っていて、これまで妻や娘と共にクリスマスはおろか、休日を過ごせたことなどほとんどなかった。確かに私は職を失ってしまった。しかし、その代わりに家族の団欒という何物にも替えがたい宝の存在を私に気づかせてくれたんだ。

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