025 悪くない

ビルの谷間に黄昏が落ち、夜が空に幕を引くと通りに立ち並ぶ街路樹につけられたイルミネーションが一斉に点灯し、彩やかに染められた12月の街を誰もが忙しなく行き交う足を止め優しく見つめる中、俺は呟いた。

クリスマスなんて嫌いだよ。

15回目のコールが空しく携帯から響く。向こうにいるはずのミキは出れないのか、出ないのか、多分後者だろうと思う。ふくれっ顔したミキを容易に想像できて俺は溜息まじりに携帯を切った。
ちょうど一週間前に喧嘩をした。
一緒に過ごせるはずだったクリスマスが突然、仕事が入り駄目になったと知ったミキの落胆は相当なものだった。無理もない話だとは思う。ミキにはその権利がある。けれど仕事なんだから仕方ない。その理屈は学生であるミキには通じなかったようだ。
あれから連絡も来ないし、もう駄目なのかもしれない。
俺はまた溜息を附き重い足取りで職場へと向かった。

胸元に構えていた誘導灯を左進行へと横に振る。
道路補修工事により国道17号線は帰路の途につく車と街へ繰り出す車で渋滞を作っていた。
夜も更けてきたというのに車の数は一向に減る様子は無かった。それに反比例するように待たされている運転手達の苛立ちは増してきている。轢き殺す気かと思わんばかりに車を俺に近づけてくるヤツ。クラクションを鳴らすヤツ。
彼らの怒りは俺達、交通誘導警備員に向けられる。恐い。今日はいつもより特別、皆、殺気立ってるのは恐らく間違いじゃないだろう。
クリスマスなんて嫌いだよ。附いた溜め息は重く、白かった。

寒さは疲労を増幅する。腕の感覚が無くなりつつあった頃ようやく俺は休憩にありつけた。
道路脇に置かれたパイプ椅子と石油ストーブが安息の地だった。俺はかけておいた厚手のコートを羽織り温められた缶コーヒーを啜る。暖は冷えた身体をほぐしてくれる。何気に腕時計を見ると午後10時を指していた。
まだまだ交通量が減る様子は無かった。

「お疲れ様」

驚いて振り向くとミキが歩道に立っていた。戸惑う俺を尻目にミキは無言で隣へ腰を下ろした。
まだ怒っているようだ。射抜くようにして俺を見る。ちょっと恐い。
不意に俺が口にしていた缶コーヒーを奪うと、ミキは一口飲んで顔をしかめた。ブラック無糖コーヒーはお気に召さなかったようだ。
ミキはしかめ顔のまま俺の手を取ると何やら握らせた。

からあげくん?

見ると、手にはコンビニエンスで売ってる赤い袋に包まれた5ピース入りのから揚げくんが乗っていた。

「クリスマスにはチキンは尽きものでしょう」

まあ、そうだけど。チキンとは違うような気が。あ。でも、美味いねコレ。

「差し入れを兼ねてプレゼント。ホントは家に引き籠ってようかなぁと思ってたんだけど、まあコレも悪くないかなあって」

から揚げを一つ頬張りながらミキが笑う。

「それに、ほら」

ミキが上を見上げる。つられて見てみると、そこにはイルミネーションに彩られた街路樹があった。
リースも星飾りも何もないシンプルなツリーが通りを縦列に並んでいる。

「ね。こういうのも悪くないでしょ」

11時を過ぎた頃には走る車もまばらになっていた。休憩も終わってミキと別れを告げ俺は持ち場へと戻った。
対面から進行の合図が送られる。頭を下げながら待機させていた車に俺は誘導灯を横に振る。
通り過ぎようとする車の窓から子供が顔を覗かせて俺を見てこう言った。

「メリークリスマース」

だから俺も言ってやったんだ。

メリークリスマス。

うん。悪くない。

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