019 メリークリスマスは言わない

クリスマスってのはどうしてこうなんだろうな。右を見ればカップル。左を見れば親子連れ。どいつもこいつもうかれちゃって、まるでクリスマスが自分のためにあるみたいな顔して。

僕はクリスマスが嫌いだ。キリスト教国でもない日本が、どうしてこうもキリスト様が生まれた日を祝福しなきゃならないのか。日本ってのは、そういう行事にかこつけてやたらとお祭り騒ぎをしたがる傾向にある。僕がキリストだったら、何にも知らないやつらに誕生日をこんなに祝われるのは、いやだ。自分が好きな人たちだけに囲まれて、祝福されたい。

もちろん、クリスマスは彼女と、なんて、俗っぽいことはしない。そんなの、クリスマスじゃなくてもいいじゃないか。というか、もっと根本的な話、彼女なんていなんだけど。当然、クリスマスまでには!とか、張り切っちゃってるチャラ男みたいにはなりたくない。いなければ、いないでいい。無理して作る必要がどこにある。

だからクリスマスの日も、僕のスケジュールは、いつか友達がしているのを見たように、ピンクのペンで「彼女とデート」なんて文字は、ない。そしてきっと、これからも。かといって、代わりに書かれているのは、「バイト」という、これまたありふれた予定なのだが。

僕はコンビニのレジで、ファッション雑誌のバーコードを読み取りながら、心の中で舌打ちした。表紙には、「クリスマスはここでキメる!デートスポットBEST10」とか書いてある。どーせお前が彼女を作ろうったって、無理だよ。コンビニを出る男の背中を見て、そう吐き捨てた。

バイトが終わって、外に出る。息は白い。空は曇っていて、星一つ見えやしない。同じ時間にあがった、茅部さんが遅れて出てくる。

「大橋くんは、今日は彼女とか友達とかと過ごさないのかな?」
「あ、僕、クリスマス嫌いっすから」

茅部さんは、知ってるよ、といった感じで笑う。

「茅部さんこそ、彼氏はいいんですか」

そう、確か彼氏がいたはずだ。もうつきあって3年にもなる人が。

「ああ。あたしもクリスマス嫌いだから」

意外だ。女といえば、クリスマスと言えばデート。それが世界の常識でしょ?という考えの生き物だと思っていたからだ。

「仏教徒ですか?」
「なんでよ。そんなんじゃなくて」

目を丸くしていたであろう僕の頓狂な質問に、彼女は吹き出した。

「彼もね、そういうの嫌いなの。だって、恋人同士が会うのに、クリスマスだから、なんて理由付け、必要ある?」

僕は、うーん、と唸って、何も返せなかった。

「まあ彼もあたしもひねくれてるからね。みんなと同じことするのがいやなだけなんだろうけど」
「確かに。それ、わかるかも」
「ひどーい。バイトの後輩にまでそう思われてたなんて」

彼女は少しも傷ついた様子はなく、むしろ嬉しそうだ。
僕も、間違いなくひねくれてる。なんだかちょっとだけ、親近感が湧く。

「知ってる?サンタクロースってさ、セントニコラスっていう昔の司教さんが、お金がなくてお嫁にいけない家に金貨を投げ入れて、
そのおかげでお嫁に行くことが出来ました、ていう話なんだって」
「へえ」
「でもさ、そんな人の助けを借りたくないじゃない?同情なんて、してほしくないじゃない?
結婚資金ぐらい、自分で稼ぐっつの。サンタさんのプレゼント、なんて、いらないよ」

相変わらず街はカップルだらけだ。
手をつないだり、腕を組んだり、肩を寄せ合ったり。

「ばかみたい」

そう言いながらも、彼女は笑っている。まるで、遠い昔の自分を懐かしむように。

「ま、大橋くんもね、きっといいひと見つかるんじゃない?あたしみたいなひねくれもの、どっかにいるよ」
「大きなお世話です」
「ったく、かわいくないねー。せっかく慰めてやってんのに」
「別に寂しくもなんともないですよ。僕、ひねくれものですから」
「ははっ。違いないね」

茅部さんと別れを告げ、家路をゆっくりと歩く。
こんなクリスマスなら、悪くないかな。ちょっぴりクリスマスが嫌いじゃなくなった。

気づけば、雪が降っていた。

「あちゃー、あいつら、また調子乗っちゃうなあ」

茅部さんのこんな感じの文句が、頭に浮かんだ。

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