010 メリークリスマス

 サンタクロースを何歳まで信じていたか。クリスマスが近づくと一度は耳にするこの話題に、わたしは参加することができない。クリスマスになると親がお金をくれて、そのお金で欲しいものを買っていたからだ。お年玉との違いを知らないまま、クリスマスを過ごしていた。クリスマスの朝起きると枕元にプレゼントが、なんて体験、わたしには一度も無かったのだ。わたしにとって、クリスマスはちっとも特別な日ではない。
 こうしてクリスマスに関心の薄いわたしができあがり、そのわたしが好きになった男が、大のイベント好きだったという不思議。今もわたしの目の前、リビングの角に嬉々としてクリスマスツリーの飾り付けをしている。わたしの腰くらいの高さのもみの木(のレプリカだろう、多分)に、金や銀や赤のモール、プラスティックの玉、ピカピカと何色かに光るのであろうランプ、雪を模した綿に、小さなベルやリース、そしててっぺんにはお決まりの星。わたしと彼が付き合うようになって三年、少なくともその三年は毎年欠かさずのことだから、もう驚きはしないけれど、よくもまぁあんな細々とした飾り付けに飽きないものだ、と感心するのは変わらない。
 よし、とつぶやいて彼が部屋から出て行く。少しして、両手いっぱいに抱えたプレゼントボックスを持って戻ってきた。大きいのから小さいのまで色とりどり。赤、黄、緑、青。さまざまな色の包み紙が、さまざまな色のリボンで結ばれている。彼は嬉しそうにツリーの周りの床に配置していく。一番小さなものは木にぶら下げた。このプレゼントボックスたちは、去年はなかった気がする。
「あきら、それ、作ったの?」
「買ってきたのもあるし、自分で細工したものもあるよ。去年とまったく同じだとつまんないからね」
 そうしてクリスマスイブがやってきた。仕事を終えてあきらと食事をする。街は本当にクリスマス一色で、例えばラーメン屋なんかもどこかクリスマスに遠慮している気さえする。ケーキを買って、家に帰ったのが10時過ぎ。明日が休みなのはクリスマスだからではなく、土曜日だから。こんなにもみんなが騒いでいるのに、クリスマスは祝日ではない。
「ただいま」
「おかえり」
 わたしが言って、あきらが答える。あきらはリビングの電気をつけるより先に、クリスマスツリーのランプを付けた。あんなにもきらびやかなのに、クリスマスツリーは静かだ。どうして音が鳴るようにしなかったのだろう。

「はい、靴下」と、寝る前に、あきらが大きな赤い靴下を渡してくれた。これも毎年のことで、ふたりしてベッドの枕元に下げておくための靴下。
「もしかしたら本当にサンタクロースが来るかもしれないから」
 彼は言う。男ってどうしてこんなにもロマンチストなのだろう。わたしたちはキスを交わしておやすみと言い合った。そう言えば、リビングのクリスマスツリーはつきっぱなしかもしれない。消しに行くべきか悩んでいたら、隣から彼の寝息が聞こえてきた。そっと名前を呼んでみるけれど返事はない。きっとシャンパンが効いているのだろう。特に彼は、クリスマスだからとはしゃいでいた。音を立てないようベッドから這い出てクローゼットを開け、わたしのコートのポケットから白い包み紙、赤いリボンのプレゼントを取り出した。彼の枕元、靴下にそっと忍ばせ、わたしはベッドに戻った。こんな仕掛けを考えるなんて、わたしも変わったと思う。

「おはよう!」
 あきらがにこにこしながらわたしを起こした。今何時だろう。
「……おはよう」
「これ、ありがとう!」
 万年筆を両手で持って、わたしに見せる。
「……よかったね、サンタクロース、来たじゃない」
 つぶやくように言って、洗面所に向かう。顔を洗ってリビングに向かうと、ピカピカとクリスマスツリーが輝いていた。やはり消し忘れたのか、それともあきらがつけたのだろうか。
「ねぇゆかり。ゆかりにもプレゼントがあるみたいだよ」
 あきらがクリスマスツリーを指差して言った。
「え?」
 ほらあれ、とツリーの周りに置かれたプレゼントボックスを示す。
「ほんとに? だって、これ飾り付けでしょう?」
 言いつつもわたしは赤いリボンを解いて、そっと包み紙を開く。中から、マフラーが出てきた。次の青い箱からはコーヒーカップ。
「あきら、これ全部そうなの?」
 にっこりあきらはうなずいた。プレゼントボックスはまだいくつもある。
 全部を開けて、わたしは言った。
「……ありがとう」
「サンタクロースも奮発したみたいだね」
「うん」
「でもゆかり、ほら、まだひとつ残ってるよ」

 彼が指差した先は、ツリーにぶら下げられた、小さな、青い箱で、開いて、中には、きらりと、指輪。

 あきらに抱きついて、今まで言ったことのなかったあのセリフをささやいた。

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