009 続 やとわれサンタ

ホワイトクリスマス? 状況をみてからものをいえ。アスファルトの肌なんて、もう何ヶ月もみちゃいない。

俺はソリをひいていた。

今年も、雇われた。

コンビニ戦争は学生街でも起きている。差別化。俺らバイト連中は店長の提案に戦慄した。

「ケーキを配達しよう」

で、このざまだ。

本当なら、今日はオフだった。もっともイブだろうとイブイブだろうと、俺の予定は空いている。イブイブってなんだ。じゃあ12月26日はイブの364乗か? ふざけんな。

「代わり頼めねーか」川野から電話。風邪をひいたらしい。俺は代打を引き受けた。この忙しいときに。忙しいから、か。俺もあいつもシフトがひどいことになっていた。

「まっかなおっはなのーー」俺オンステージ。若干投げやり。雪は音を吸収するって? だったら俺の歌で染めてやる。今日はこの歌しか歌わないと決めた。何周目だ。忘れた。でも着実にソリは軽くなっている。ケーキを配り終えるのが先か、俺の喉が枯れるのが先か。

雪。しんしんと、じゃないけど降ってるよ。ごうごうと。なあ。水平に飛ぶ雪をみたことがあるか? 雪虫の50倍のスピードで頬を打つ結晶。耐えられなくなった俺はライバル店に入った。ソリをひいたまんま。摩擦、舌打ち、店員の目。悪かった。傘置き場のとなりに。ジンを買って店を出る。瓶に口をつけて、赤鼻のトナカイをリプレイ。どこまで歌ったっけ。まあいいや。酒で暖を取らないと死ぬ町。ラベルの中で佇むロンドン塔の衛兵。あんたも大変だな。

「なにやってんの」

振り向く。智美だった。左手に酒屋のビニール袋。半透明の向こう側に平仮名。いいちこ。焼酎かよ。「シャンパンは?」「この町にはスパークリングワインしかないよ」「ん。スパークリングワインは?」「勝手にスパークしてりゃいい」おまえもひとりか。友よ。

「あ。配達?」「ああ」「大変だねえ、えーと、あと4件?」「いや、みっつはキャンセルだから次で最後」「そのあと飲もうか」「いいよ」「じゃあ付き合う」俺のとなりを歩き始める。「これに乗っけていいよ」袋を指す。「ありがと」

「誰がおまえも乗っていいっていった」ひきながらいう。夕方店を出たときより重くなったのはなぜだ。「トナカイはしゃべるな」おまえはサンタか。なんかプレゼントくれるのか。

「明日は予定あるの?」「トナカイ」「続けて? ひどいね」川野が倒れたから、と付け加える。

「あいつ、由紀と一緒だよ」

足が、止まった。

「看病してくれる女がいるんだ。いいな」「そうじゃなくて。由紀がデートする相手みつかったって喜んでた。だからあたし今日ひとりになったんだもん」もう、ジンは必要なかった。心の方から外に向かって熱くなってたから。雪? 今は俺に近づくな。とけるぞ。

最後の予約客にケーキを配る。智美が「来年もよろしくお願いします」と笑顔。俺の代わりに愛嬌を。おまえ、いい奴だな。ソリに乗ってていいよ。いわなくても、それが当然であるかのように、智美は再び腰をおろす。うん。いいよ。

「よし、あたしたちも飲も?」「ごめん、まだ残ってる」「キャンセルでしょ?」「売ってくる」「ノルマなの?」「ちがう。川野に売ってくる」智美が、黙った。俺はいう。「あいつは、今、どっちにいる」「由紀んち」「案内してくれ」よかった。川野の部屋だったら簡単には出頭しなかったかもしれない。

「ちょっと待ってて」俺はケーキをかかえた。呼び鈴を押す。女が出た。「メリークリスマス。川野いる?」

「あ」

「みっつですから、一万二千円になります」「これは、あの」「なります」

「おまたせ」「やとわれサンタっていうより」智美は俺が去年食らった受難を知っている。去年は、はしごと密室とドラえもんだった。「ん?」「押し売りサンタだね、今年は」「もうサンタはいい」「じゃあ、トナカイに戻って」俺は雪に埋もれた手綱を握った。

「お疲れさん」智美が降りる。「おまえのおかげで、今年は幾分ましだった」「これから飲むのに今いうの?」「ああ、そうだな。飲もう」

「赤鼻のトナカイの鼻が赤い理由、知ってる?」「目立つようにだろ?」「赤くなった理由は?」歌詞を反芻する。「いや、知らない」

「頑張ったご褒美をもらったから」

鼻に口づけされた。うろたえた俺は手でこすってしまった。雪と一緒に広がる紅。

「ね?」

さびた階段をのぼりながら、いう。「なあ。サンタって口紅してたのか」「馬鹿」

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