と言っても色気のある話ではなく。
「ちびくろさんぼ」やその他ネタを出し尽くしてしまって子供に聞かせる作り話の、おはなし。
昔、むかーし。
誰も知らない海のまんなかに 誰も行ったことのない島がありました。
誰も行ったことのない島には 誰も見たことのないおおきな木が 1本はえておりました。
誰も行ったことのない島の 誰も見たことがない木には 誰も見たことがない
小さな木の実が たくさん住んでいました。
木の実達は 誰も見たことがない木の葉の着物を着て
毎日口笛を吹いたり 木の枝につかまったりしながら暮らしていたのです。
そこは 一年中ぽかぽかと暖かいところでしたが
ある日 今までに吹いたこともないような強い風が吹き 激しい雨が降りました。
「ぼうやたち おかあさんにしっかりつかまって!」
誰も行ったことのない島の 誰も見たことのない木は 木の実達に叫びました。
けれど 1つの木の実が強い風に吹かれて手を離してしまいました。
「あっ ぼうや」
誰も見たことがない木は叫びましたが 木の実は飛ばされてしまいまいました。
ずーっと ずーっと はるか雲の上まで舞い上がった木の実は やがてくるくるぽちゃんと海に落ち
そのまま 暗い海の底まで沈んでゆきました。
誰も見たことがない木の葉を着た 誰も見たことのない木の実の子供が目を覚ますと
そこは真っ暗な海の底です。
誰も見たことがない木の実の子供は
「もうぼくはお母さんのところへ帰れないんだ」
と しくしく泣きました。
木の実が泣いていると 海の向こうから小さな灯りが近づいてきました。
「まあ坊や 何をそんなに泣いているんだい」
灯りはチョウチンアンコウのおばさんが 頭からぶら下げていたのでした。
「ぼくは 風に飛ばされて そのあと海に落っこちて おうちがわからなくなっちゃったの」
「おやおや きっと坊やはずいぶん遠くから来たんだねえ」
チョウチンアンコウのおばさんはいいました。
「坊やと同じ形をした木の実を あたしは見たことがないよ」
それを聞いた木の実は ひとりでは帰れないほど遠くまで飛ばされて流されてしまったことを知って
また しくしくと泣き出しました。
「そんなに泣くものじゃないよ」
チョウチンアンコウのおばさんがいいました。
「そうだ 海の魚たちに行って 坊やと同じ姿の木の実を見たものがいないか 聞いてあげよう。
あたしの背中に乗りなさいな」
言うが早いか おばさんは木の実の子供を背中に乗せて 海の明るい上の方へと泳ぎだしたのでした。
おばさんは 大きな魚や小さな魚や 世界中の海を泳ぐ魚たちに聞いて回りましたけれど みな
「このこのような変わった木の実は見たことがない」
と言うばかりで 誰も木の実のいたところを知りません。
「そうだ」
おばさんは言いました。
「私たち 海のいきものの王様なら何か知っているかもしれない」
海の王様のお城は それはそれは大きくて 木の実が住んでいた島よりも大きいかもしれません。
大きなお城の 広い広い部屋の一番奥に それは大きな魚の王様が座っています
「王様 私は知っている全部の海のいきものたちに きいてみたのですが このこと同じ木の実が住んでいる島を誰も知りません。 もしかしたら王様はご存知ではないかと思って こうしてたずねて参りました」
海の王様は 木の実よりも何倍も大きな目をぎょろぎょろして木の実を見た後 しばらく考えて言いました。
「この海で 私が見たことのないものなどひとつもないが お前と同じ形をした木の実が流れてきたのは見たことがない 不思議なこともあるものだ」
王様は 大きな目玉をぐるりぐるりと動かしながら 続けて言いました。
「木の実の子供。 だが まだ家に帰れなくなったのではないぞ。 空は海よりずっとずっと広いのだ 海の上まで送らせるから 今度は鳥たちに聞いてごらん 海の上まで送ってやろう」
海の王様は 木の実を大きなひれで抱えると ごうごうと渦を巻きながら 海の上へ泳ぎ出しました
「おおい 鳥たちよ 誰か近くを飛んでいるものはいないか」
海から顔を出した王様が叫ぶと 高い空から渡り鳥が1羽降りてきました。
「これは 海の王様 こんなところまでいらっしゃるのは珍しい」
「うむ このこの家を探してやってはくれないか」
「それでは鳥の仲間達に このこと同じ形をした木の実を知っているものがいないか聞いてみましょう」
木の実の子供は 今度は渡り鳥の背に乗って飛んでゆきました。
渡り鳥は 何日も何日もかけて 森や 山や 街にいる鳥の仲間達へ聞いて回りました。
けれど
「こんな変わった形をして 変わった木の葉を着た木の実の子供は見たことがない」
やっぱりだれも 木の実のことを知っているものはありませんでした。
「海よりも ずっとずっと広い空を飛ぶ鳥さんたちも だれも僕のことを知らないなんて もう どうしたってぼくはおうちに帰られないのだ」
誰も見たことがない木の実の子供は 渡り鳥の背中でぽろぽろ涙をこぼして泣きました。
「ぼうや 私たち鳥の王様なら何か知っているかも知れないよ そこへいってみよう」
渡り鳥は 鳥の王様のお城へ飛んでゆきました。
鳥の王様のお城は 海の王様のお城よりも大きくて 海の王様のお城がすっぽりと入ってしまいそうなほどでした。
お城のいちばん奧では 森より大きそうな空の王様が座っています
「王様 わたしは知っている全部の鳥にこの子と同じ木の実を見たことがないか聞いて回りましたが 誰も知っているものがおりません もしかして王様ならばご存知ではないかと思ってこうしてたずねて参りました」
鳥の王様は 木の実の子供をじっと見た後 言いました。
「ううむ 私は鳥の中で一番早く 一番遠くまで飛ぶことができるが お前と同じ形をして同じ葉っぱを着た木の実を見たことがない 不思議なこともあるものだ」
鳥の王様は 小さな丘ほどもありそうな頭を右に左に動かして考えたあと 続けて言いました。
「そうだ 私の友達の 東の風に聞いてみよう。 風は 私たち鳥よりも ずっと ずっと遠くまで飛ぶことができるのだ 送ってあげるから私の背中に乗りなさい」
鳥の王様は 木の実の子供頭に乗せると 山よりも大きそうな羽を広げて びゅーっ と嵐のような風を巻き上げて飛びました。
渡り鳥と旅したのよりも ずっと ずっとたくさん飛んだあと 鳥の王様に乗った木の実は 東の風の家につきました。
鳥の王様は
「おおい 東の風よ お前の友達の鳥の王様がきたぞ」
と言いました。
「おやおや こんなところまで来るとは珍しい」
山の陰から 東の風が姿を現しました。
東の風の足下はびゅうびゅうと音がして その身体はなんと鳥の王様より少し大きなくらいです。
鳥の王様は 頭の上にちんまりと乗っている木の実の子供を指して言いました。
「この子がどこから来たか 私も家来の鳥たちも誰も知らないのだ もしかしたら東の風が知っているだろうと思ってたずねてきたのだ」
東の風は ごうごうと音を立てながら木の実を見つめると言いました。
「ううむ こんな変わった形をして こんな変わった木の葉を着た木の実は見たことがない。 そうだ、私の兄さんの西風なら何か知っているかもしれないよ。一緒に行って聞いてあげよう」
……。
と、いつもこの辺で子供達が寝ちゃうので、このあと木の実がどうなったのか実は僕も知らないのでした。
いつか完結まで起きていられるようになるのかなあ、うちのこ。